令和6年度議事録
「強度行動障害」を持つ患者様の居室に施錠することが適正かどうか
申請番号 | 06-01 | |
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申請者 | 医 師 | 上野 知香 |
課題 | 「強度行動障害」を持つ患者様の居室に施錠することが適正かどうか | |
【概要】 重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症の患者では、「強度行動障害」を伴う場合がある。「強度行動障害は」は直接的な他害(噛みつく、頭突きする、叩く、蹴るなど)や間接的な他害(睡眠障害、こだわり)、自傷行為などが通常は考えられない頻度と形式で出現し、通常の養育環境ではかなりの養育努力があっても著しく対処が困難とされている。精神科ではこのような患者に対し、治療(目や耳から入る刺激を減らし、気持を落ち着ける)として居室隔離や、ベッド上に身体拘束を行う場合がある。 当院では2023年11月より新たに上記障害を呈する、自由に歩行が可能な41歳の男性患者様を受け入れている。薬物の調整を行っても、その行動を制御することが難しく、度々きっかけなく、偶然通りかかった他患、清掃業者を叩いたり壁に叩きつけたりするなどの行動をとり、また、ご本人にとって理解不能な処置(気管カニューレ内の痰の吸引、痰を柔らかくするための吸入、栄養を摂取するための経腸栄養剤の注入など)のたびにスタッフを叩く、蹴るなどの暴力を振るい、スタッフは2-3人がかりで処置を行っている。気分によってはワゴンやパーテーション(重さがあるもの)を倒すなどの行動もとるため、スタッフの精神的負担(他患を守りたい、自身の身体を守りたい、恐怖心に耐える精神的努力が求められる)が募っている。1on1で対応できれば本患者様の行動化を防げそうだが、実際には、他患を看ながら本患者様のケアをしており、時間的にも精神的にも負担となっている。 2024年2月より病棟スタッフに対し、「強度行動障害のある人へのアプローチ」として教育プログラムを少人数制で開始しているが、スタッフ全体がこの患者様への関わりにおいて理解を深め、対応を統一できるようになるまでに時間を要する。 2024年3月22日にはトイレに長時間籠った(最近のご本人のこだわり)後、痰つまりによる窒息を起こしており、倒れた場所がトイレや、他患の居室であった場合、致死的な経過をたどってもおかしくなかった。日常的に気道を加湿すること(トラキベントの装着や吸入)に拒否的で、痰の粘ちょう度は高く、再発の可能性は否定できない。身体的な安全を守る意味では、病棟内を自由に歩き回れる環境より、居室内で過ごして観察を密にする方が安全である。 そのため、2024年3月29日臨時の虐待防止委員会を開催し、当患者様を居室に施錠して隔離することが妥当か検討した。当委員会では「やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件」について、(1)切迫性: ご本人の生命を守ること、他患の権利が危険にさらされる可能性が高いことに該当、(2)非代替性:過去に体幹抑制により誤嚥性肺炎を起こしたことから、体幹抑制より居室への施錠が妥当である、(3)一時性:隔離が適切か主治医を入れた定期カンファレンスを行い、鍵を開錠する時間を伸ばしていくことが安全である、との結論を得た。 居室の施錠(隔離)を行った場合の患者安全の担保については、肥前精神医療センターでの実施方法を参考に、特に配慮を行うこととした。一方で、施錠の実施は院内の虐待防止委員会のみで決定することは不適切であり、第3者の意見を聞くことが必須であると結論された。 そこで、このような環境下で、当院でこの患者様の居室に施錠(隔離)をすることについて、当委員会にご意見を伺いたい。 |
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判定 | 条件付承認(見守りカメラの設置が必要) |